海外ガイドライン紹介① 職場とHIV/エイズ
━━BRTA JAPANでは、日本での取り組みの参考になりそうな海外の文献を紹介しています。今回はその第1弾、HIV陽性者の採用や雇用に関するガイドブックから内容を抜粋してご紹介します(第2弾はこちらのページでご覧ください)。
英国でのHIV/エイズを取り巻く状況、特に「2010年平等法」といった障害者をあらゆる差別から保護する法制度など、前提条件に違いがあります。日本国内の採用や雇用に関する情報については、事務局までご相談ください。
英国の権利擁護団体ナショナル・エイズ・トラストが2012年に発行した「HIV@WORK – Advice for employers(職場におけるHIV – 雇用主へのアドバイス)」は、HIV陽性の従業員への対応について述べています。
英国では、雇用主には、障害者(HIV陽性の診断を受けた時から適用)を差別から保護する平等に関する法律が適用されます。
2010年平等法(Equality Act)では、以下のような差別からHIV陽性の従業員を保護します。
- HIV陽性の従業員を他の従業員よりも不利益に取り扱うこと
- すべての従業員を同じように扱うことで、HIV陽性の従業員を差別することになりうること
- 経営慣行や方針が、HIV陽性の従業員の不利益な取り扱いにつながること
- 身内にHIV陽性者がいる従業員を他の従業員より不利益に扱うこと
また、雇用主には、以下のような義務があります。
- 従業員をハラスメントから守ること
- 従業員を支援するために合理的調整を行うこと
- 差別を受けていると申し立てた従業員への報復的取り扱いの禁止
ナショナル・エイズ・トラストは、雇用主はハラスメントの防止のため、以下のような実践をすることを提案しています。
- ハラスメントに対する方針を整備する
- ハラスメントは容認されず、懲戒対象となる旨を明言する
- ハラスメントに対する方針とスタッフの責任を周知する
HIV陽性の従業員が合理的調整や差別からの保護や合理的調整を受ける場合、雇用主に自らのHIVステータスを明かすことになります。その点、1998年データ保護法は、従業員や求職者から開示されたすべての機密性の高い個人情報(心身の健康状態を含む)の手続きを規制しています。
- 個人情報の譲渡には書面による承諾が必要
- 責任者は、個人情報を適切に取り扱う手順を整備する
ナショナル・エイズ・トラストから同年発行された、「HIV + Recruitment – Advice for employers」(HIVと採用 – 雇用主へのアドバイス)では、採用プロセスにおいてHIVによる差別を避けるためのガイドが示されています。
2010年平等法により、採用内定前の求職者に健康関連の質問をすることは以下の場合に限定されてます。
- 選考プロセスについて合理的調整を行う必要があるか尋ねる場合
- 求職者が、その職務を本質的に遂行できるか判断する場合
- 障害者支援のための積極的な措置を講じる場合
- 従業員の多様性や、平等性や差別していないことの実績をモニターする場合
- 障害者であることが職務の要件である場合
また、紹介状(前の職場などから)を求める場合も、紹介者が求職者のHIVステータスに言及することは1998年データ保護法の規定違反になり得ます。
健康状態についての要件があるという極めて特殊な場合を除き、雇用主は内定前の求職者に健康調査票への記入を求めることはできません。内定後に健康調査票への記入を求めることはできますが、HIV陽性であることを知ることとなった場合、2010年平等法による保護の対象になるので、HIVステータスによる差別は同法の違反となります。