海外ガイドライン紹介② 医療従事者とHIV/エイズ
━━BRTA JAPANでは、日本での取り組みの参考になりそうな海外の文献を紹介しています。今回はその第2弾、HIV陽性の医療従事者に関する英国のガイドラインです(第1弾はこちらのページでご覧ください)。
英国では、「2010年平等法」といった障害者をあらゆる差別から保護する法制度など、すでにHIV陽性者の雇用が守られる条件が揃っているといった前提条件に違いがあり、日本で取り入れる際には注意が必要です。日本国内の医療従事者とHIV/エイズに関する情報については、事務局までご相談ください。
英国健康安全保障庁(UKHSA)の血液媒介性ウイルス感染医療従事者に関する諮問委員会(UKAP)は、「医療従事者の健康調査および血液媒介性ウイルス(B型肝炎、C型肝炎、HIV)に感染している医療従事者の管理に関する総合ガイドライン」を発表しています。2021年11月版のガイドラインでは、HIVを含む、血液媒介性ウイルスに感染している人が医療従事者として就業することについて、次のように述べています。
適切な感染予防管理対策を常に実施している場合、医療現場における大部分の臨床行為で患者に感染させるリスクはありません。
医療従事者から患者へ感染させ可能性がある医療行為は、「曝露リスクの高い医療行為(以下、EPP)」と呼ばれており、医療従事者が負傷した場合にその血液が患者の切開部と接触して感染を引き起こす可能性があります。
EPPは、手袋を着用した医療従事者の手が、(手や指先が常に完全に見えない可能性のある)患者の体腔切開部、創傷、密閉された解剖部位などにおいて、鋭利な器具、針先または鋭利な組織と接触する可能性がある処置などです。
また、EPPは、感染リスクの大きさにより以下の3つのカテゴリーに分けられています。
- カテゴリー1
医療従事者の手指が基本的に見えている状態で、ほとんどの間患者の体外にあり、かつ鋭利な器具または組織により医療従事者の手が手袋越しに負傷する可能性がほぼない行為。医療従事者の血液が患者の切開部に接触するリスクはない。(代表例: 歯科の局部麻酔注射、痔核の切除)
- カテゴリー2
指が隠れて見えないときがあるが、鋭利な器具または組織により医療従事者の手が手袋越しに負傷する可能性が低い行為。医療従事者が負傷した場合でも、直ちに発見して処置することで、その血液が患者の切開部に接触するのを防げる可能性がある。(代表例: 通常の抜歯、結腸人工肛門造設術)
- カテゴリー3
行為の大部分または特定の臨床段階において指が隠れて見えないときがあり、鋭利な器具および/または組織により医療従事者の手が手袋越しに負傷するリスクが非常に高い行為。医療従事者が負傷し、その血液が患者の切開部に曝露した場合でも、全く発見できないか、または直ちに発見できない可能性がある。(代表例: 子宮摘出術、帝王切開、開胸心臓外科手術)
医療従事者の手指が常に患者の体外で見えている状態にある行為、ならびに鋭利な器具および/または組織により医療従事者の手が手袋越しに負傷する可能性がほぼない内診、または体内処置は、曝露リスクの低い医療行為(非EPP)です。(代表例: 採血(静脈穿刺)、末梢静脈ライン/中心静脈ラインの刺入・留置(中心静脈ラインについては、非EPPにより皮膚に刺入する場合に限る)、小範囲の表面縫合、外部膿瘍の切開、通常の膣検査/直腸検査、簡単な内視鏡手技)
血液媒介性ウイルスに感染している、または感染の可能性がある医療従事者の責任と義務のなかには、以下のような項目があります。
- すべての医療従事者は、そのキャリアの適切な段階において、健康調査(血液媒介性ウイルス検査)の要件を満たさなければならない。
- EPPを担当する可能性があり、かつ血液媒介性ウイルスに感染している医療従事者は、適切な労働衛生管理を実施し、必要に応じて業務を制限するため、労働衛生専門家から助言を受けなければならない。
- 血液媒介性ウイルスに感染している医療従事者は、専門家から助言を受けるか、EPPに必要な条件を満たさない限り、EPPを行ってはならない。
血液媒介性ウイルスに感染している医療従事者のプライバシー保護については、以下のように定められています。
- 労働衛生に関する記録は、個人の同意なしに記録または情報が公開されないようにする義務を遵守している産業医のみが閲覧できる。
- 従業員の血液媒介性ウイルス感染状態が無断で開示された場合は、秘密漏洩と見なされ、懲戒処分の対象となる可能性がある。
- 例外として、患者がリスクを受けているまたは受ける可能性があり、治療、感染拡大の防止または公共の利益のために必要と考えられる場合には、同意なしでの開示も認められる(ただし、正当性の検証および患者リスクの詳細な評価が求められる)。
医療従事者の健康状態の調査、モニタリングおよび継続調査には、主に以下の項目があります。
- EPPを担当しない役職向けの一般健康調査は、必ず臨床業務に従事する前に実施するものとする。任命時に血液媒介性ウイルスの感染状態の開示を拒否した場合でも、EPPを担当しない者については、雇用に影響を与えない。
- EPP担当の医療従事者は、血液媒介性ウイルス検査を拒否する権利があるが、拒否した場合には、EPPを行うことは認められない。
- EPPの担当を希望するHIV陽性の医療従事者のうち、ウイルス量が200コピー/mL以上の者は、EPPを制限される。
- EPPが可能であると判定されたHIV陽性の医療従事者は、EPPに従事している期間中、12週間ごとにウイルス量検査を受けるものとする。
- ウイルス量が1,000コピー/mLを超える医療従事者は、12週間以上の間隔で実施した2回連続の検査において、ウイルス量が200コピー/mL未満に安定するまで、EPPを直ちに制限されるものとする。